「父上のところに行っていたんでしょう?兄上だけ呼ばれるだなんて、ずるい。」
「すまない…」
いつもなら「すまない」といいながら苦笑する兄が切なげな顔をしているのに、
都姫は怪訝な顔を浮かべた。
「兄上、どうかしたの?」
「いや…」
「どうしたの?」
結局、敦盛は父の居室での出来事を全て話し、
不安な心持ちであることまで全て打ち明けていた。
「兄上の元服出仕に私の裳着…。」
「あぁ…。」
「出仕するの?」
「したくなくても…許されないだろう」
「私は嫌よ。」
「え?」
「裳着を済ませたら、御簾の中で大人してなきゃならないじゃない。
私はそんな生活嫌よ…そうだ!いい事思いついた。」
きっぱりと言い切る片割れに人気のない塗籠にされるがままに連れ込まれる。
「入れ替わりましょう、兄上。」
「いっ…?!」
静かにっ!と注意されて「すまない。」と敦盛が続きを促すと都姫は
更に押さえた声で続ける。
「ただ大人しく諦めるなんて出来ない。元服と裳着の式の後に入れ替わるのよ。
私は漢籍も笛も弓もひけるから出仕にも問題ないし、自由に外を歩ける。」
「都の弓の腕は素晴らしいが…」
「裳着を過ぎれば男性との面会は基本簾中、声はあまり聞かせちゃいけないし、
兄上はかな文字も和歌も私より上手だから問題ないじゃない。」
「しかし、そのようなことをして大丈夫だろうか…。」
「大丈夫よ。決行は式の後、初出仕の日からね。」
そう言い置いて塗籠から先に出て行く都を見送りながら、
少し気は晴れたが、新たな心配事が出来た敦盛であった。
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