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「姫御子様。今日はどのように過ごされますか?」
「偏つぎなどはいかがでしょう?」
「まぁ、偏つぎは確か昨日したではございませんか、諏訪。」
「では、佐保姫様もお年頃ですから、恋を題材とした物語など紐解かれてはいかがでしょうか?」
「それは良い案でございますね。」


『つまらないわ…』
蘇芳、淡青、淡黄、赤花…
色とりどりの衣を身にまとった美しく教養高い女房・女官たちに
傅かれ、何の不自由の無い生活をしていてもまるで色彩の無い世界に
生きている様な…そんな退屈な日常が今日も始まるのか。
佐保姫は脇息に凭れて賑やかに議論を交わす内心溜息をついた。

「佐保姫様、いかがいたしましょうか?」
「そうね…、今日は物語を読みましょうか。」
 黙り込んだままの佐保姫を心配した乳母が問いかけてくる
 の佐保姫が気を取り直しにっこりと答えると、乳母は安心したように頷いてから
 テキパキと他の女房に物語を用意するよう指示を出す。
「こちらの物語は今、宮中で流行しているんですよ。」
どうぞと女房が文机と共に差し出した美しい紙で作られた冊子を佐保姫は手に取り、その表紙を捲った。

身分の低い寵妃から生まれ、臣下へと下った美貌の貴公子が
様々な姫君たちと繰り広げる恋の物語…。
宮中の女房達の間で知らぬ者はいないこの物語も…いや、どんな物語も
佐保姫にひとときの高揚感は与えてくれるものの、読み終わり現実に返ると
胸に一抹の寂しさを残していくだけなのである。

『女房達や公卿の娘は権力と財力を兼ね備えた美貌の貴公子との
結婚や、天皇や東宮に出仕して送る華々しい日々の空想が出来るの
でしょうけれど…』
佐保姫は書物から目を離し、佐保姫の周りで恋物語を広げて頬を赤らめ、
楽しげに意見を交し合う女房を眺め、自分の身形に目を移した。

労働などしたことの無い手は色白で肌も美しく、身に纏う衣も調度品も
太政大臣を務める祖父の威光で一級品揃い。
有力な後見を持たない姫君の悲惨さも十分に承知しているから、
これは贅沢過ぎる悩みであるとは分かっているが諦めの中にも浮んでくる
苦い気持ちは止めようも無いのだ。

『今上帝を父に持ち、東宮の同母姉…こんな高貴すぎる身分の皇女に手を出そうとする公達など
いるはずもないわ。物語の様な恋など夢のまた夢ね…。』
高貴すぎる内親王は斎宮・斎院として父母の薨去か帝の交代で許されるまで
神に仕えて過ごすか、未婚のままずっと父や弟、外戚に頼り生きるしかない。
『何て恵まれていて、何てつまらない人生なのかしら』

そう心の中で呟き、ひとときはこの退屈を紛らわせてくれるであろう
物語の世界へと戻っていった。
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