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そして、遂に敦盛と都姫の元服・裳着が盛大に執り行われ、
敦盛の加冠役を信武の兄である太政大臣・藤原国晴が、
都姫の腰結いを母方の祖父である高望王が行った。
敦盛は元服前より五位の位を授けられていたため、
これ以降、官職を授かるまで無官大夫と人々は称するようになった。


その年の秋、敦盛が兵部大輔として出仕をする事となった前日。
都姫は敦盛を人払いをした自室に呼び出した。

「兄上、こっちに来て。」
 入室早々、都姫に御簾の内側に来るように請われて敦盛は困惑した。
「都…その…兄といえど裳着の後に直接対面するのは不味いのではないか?」
「大丈夫、人払いをしてあるし。それに生まれたときからずっと一緒に過ごして来たのに
 面と向かって話せないなんて変な気がするから。」
来て。と有無を言わせぬ調子で言う都姫に押されたこともあるが、
幼い頃より顔を合わせてきた妹の姿を見ることが出来ない事に落ち着かなさを
感じていた敦盛はおずおずと御簾を巻き上げてその内側に入り込んだ。

「ついに決行だねっ!」
敦盛が腰を下ろした途端に興奮気味に口を開いた都姫に
敦盛は「あぁ…。」と返事を返しながら改めて妹姫の姿を見つめた。
正式な場ではないので裳こそ着けてはいないものの、
山吹匂の襲を身につけて薄く化粧が施された顔の頬を興奮でうっすら
紅色に染めている姿は兄の欲目を覗いても美しく、
入れ替わりなど行わずに入内などすれば寵を得て幸福で平穏な一生を
過ごせる事だろうと思うに至って敦盛は胸が苦しくなった。
「兄上?」
反応を返さない兄の様子を怪訝そうに都姫が覗き込んでくるのに、
敦盛は恐る恐る尋ねた。

「本当に入れ替わるのか?」
「もちろん。」
「しかし…」
さらに言い募ろうとする敦盛の前で都姫はにわかに脇息の側に置かれていた
文箱から剃刀を取り出すと敦盛の止める間もなく、
身の丈よりも七,八寸長い自分の髪を掴み、剃刀を当ててばっさりと髪を切り落とした。

「なっ…っ!」
敦盛は都姫の行動に二の句が継げずに、都姫の顔とその手に握られた
切り取られた美しく豊かな黒髪を交互に眺めている。
「兄上は"入れ替わらなければ、都は入内などして幸せを得られるのに…自分さえ我慢すれば"
 とか思っているんでしょ。」
ずいっと近付いてきた妹姫に図星を言い当てられて敦盛は目を伏せた。
「言ったじゃない、ただ簾中で大人しくしていなければならない生活は嫌だって。
 それに入内するのだって嫌よ。顔も人柄も分からない方のところになんて入内したくない。
 私の幸せは私が決める。」
膝の上で組まれていた敦盛の手をぎゅっと握って都姫は決意の籠った瞳で敦盛を
見つめた。
「兄上もこのまま出仕はしたくないでしょう?
それに周囲の女房達は買収してしまったし、私は尼か殿方の様に
髪を短くしてしまったから後戻りは出来ないわ。」
「…そうだな。」
敦盛は顔を顔を上げて自分の手を握る都姫の手を握り返した。
「いつか戻らなくてはならないだろうが、それまでに私は覚悟を決めておく。
 都は帝と東宮様の人柄を見てくるといい。」
「うん、分かった。」
都姫は目の前にいる片割れの額に自分の額をつけて誓うように目を閉じた。


その次の日、宮中には名高い藤原信武の嫡子・藤原敦盛が初出仕し、
兵部大輔となった。
 

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